リクワイアの神々~外伝~

リクワイアの神々~外伝~

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    エピローグ

     意識が再び覚醒した時。アールキーは何もない雲の上に立っていた。景色はあの時と変わらない、小惑星帯が見えるだけの空間。そんな場所にアールキーは1人いた。
    「……あれ、僕生きてるのかこれ?」
    「そうとも、言うだろうね」
     誰もいないと思っていたはずの空間に、聞き慣れない男性の声が響く。アールキーの背後から聞こえたらしい声の主に驚くように彼が振り向くと、そこにははちまきを巻いた、どこか面影が誰かとそっくりな金髪の男が、アールキーのほうへと歩いてきていた。
    「えっと、君は?」
    「紹介が遅れたね、私はライド・コルコーン。いわば、この世界の管理人……って言い方が正しいのかな、ははっ」
     どこか気さくな雰囲気を持つその男は、苦笑しながら自己紹介をする。世界の管理人とは。そんな話はロムルスからも聞いたことがなかった。
    「あの、えっと……」
    「なに、かしこまることはないよ。管理人ていったって、この世界の歴史を綴る使命を背負っただけの、世界を見守る役目しか持ってないような奴だからさ」
    「は、はぁ……」
     雰囲気にのまれてるのか、状況が理解できてないのか、あるいはどちらもか―――いずれにしても、アールキーの頭上には疑問符しか浮かんでいない。ただ、1つだけ聞きたいことがあるとすれば―――。
    「あの、そういえばさっき、コルコーンって……」
    「お、そうだよ。妹の面倒、見てくれてありがとうな」
     その言葉でアールキーは確信した。コルコーンという名で妹……それは間違いなく、ソフェル・コルコーンのことだった。
    「え、でもたしか兄は最初に亡くなったって……」
    「そ。私はこの世界で一番最初に命を落とした人間。でも、今はここにいる。いろいろとわけありでね」
     その世界の管理人とやらも関係しているのだろう。でなければここに彼がいる意味が分からない。アールキーは兄の存在こそ知っていたが、面と向かって話すのはこれが初めてであり、実際“生きて”いた頃に彼は既に世に存在していなかったのだ。
    「そ、そうですか……で、ここはいったい……?」
    「まー簡単に言えば、世界を見守る場所ってこったな。“天界”って呼ぶことにしてる」
    「天界……」
    「君たちが住んでた場所が天国で、その更に上にある場所。ここは管理人と、その関係者のみが立ち入りを許される場所とも言うね」
     つまり、天国よりも更に上の空間に、天界と呼ばれる場所があり、今ライドとアールキーはそこにいるという。
    「え、じゃあ“死んだ”わけじゃなくて?」
    「まぁ厳密に言えば“死んだ”ことにはなるだろうが、“生きて”いるとも言うな。ここははざま的な場所。本来なら、魂の在り処がなくなり体も消滅した生命は、世界の意思イシディアのもとへ戻り、そして無へと還る。そういう仕組みになってるんだ」
     属性の力が均衡に保たれることにより、この世界リクワイアは平和を保つことができる―――かつてロムルスから聞いた話が真実であることを、アールキーは驚きを隠せないという表情をした。ライドはそれに構うことなく話を続ける。
    「で、本来なら君もそれに則って無に還るはず……だった」
    「だった?」
     たしかにその理論で行くならば、アールキーは天国で命を落とし、イシディアのもとへ還るはずだ。しかしなぜか彼はここにいる―――その理由が何なのか分かりかねているところに、ライドはまた答えを出してくれた。
    「だけど、サタンの存在。あれがある限り、リクワイアに平和が訪れるのはどれだけ先になるかなぁ……と」
    「え、じゃあ……」
     イターヌルを救い、サタンを消し、そしてアールキーも消える。属性の均衡を保つために消えることとなったならば、アールキーは不本意ながらも若干それを受け入れつつあった。だが、ライドの言う“サタン”の存在。それがまだ、解決してないような雰囲気を漂わせており、アールキーは少し動揺した。
    「いやいや大丈夫。君の『セイントパージ』はサタンを封印し、一時的な世界の平和を生んでくれた。封印……だと思うんだけど」
    「いやなんでそこ曖昧なんだよ!」
    「いやはやこれが初めてなものだからつい……ははは」
     苦笑するライドの表情にどこか訝しげな表情を向けるアールキー。だが、世界は平和になったという言葉があるあたり、自分がしたことはとりあえず無駄ではなかったのだろうなという考えになることはできた。
    「ま、でもいずれまたもし……こういうことがあった時のために、君にはここで一緒に世界を見守ってもらいたいって思うのさ。ま、たぶんイシディアもそれを望んだんだろうけど……」
    「イシディアって……」
    「私たちの生みの親……みたいなものだ。世界の意思、だからな」
    「は、はぁ……」
     なんとも言い様がない感じだったが、アールキーはとりあえずこれ以上聞かないことにした。今ライドから聞いた話だけでもかなり新しい知識が入ったのだ、情報の整理の1つでもしないとこれ以上入るといろいろと訳が分からなくなりそうだと思い、一度アールキーは言葉を区切る。
    「(……じゃあ、あの時脳裏に聞こえた懐かしいような声って……)」
     情報を整理しながら、アールキーはそして思い出す。サタンの存在が現れ、自分がディエティの力を覚醒させた時。あの時アールキーは、どこか懐かしい声に世界をお願いと言われた。ひょっとしたら、あれはイシディアの声だったのかなと思うと、どこか納得がいくような感覚を覚えていた。
    「ま、とりあえず『星の種』のこともあるし、じっくりと見守っていこうじゃないか」
    「星の種はあれ、失敗だったんじゃ……?」
     そしてライドが呟いたことにアールキーが聞く―――彼は笑顔でアールキーに振り向いた。
    「すぐに芽生えないからって失敗だーなんてことはないだろ? いつ花開くかは分からんが、それを気長に待つってのもありだと思うぞ?」
    「あ、はぁ……まぁ、そ、そうですね……」
     そう苦笑しつつ、アールキーは雲の端に移動していたライドの隣に歩み寄る。そこからは天国も一応見えるらしく、こちら側が認識はできるが相手には認識ができない、といった感じなのだろう、こちらがいくら視線を投げかけても気づく様子は全く見られなかった。
    「ま、ソフェルの様子もこうやって見られるし……後はま、なるようになると考えればもーまんたいさ」
    「お、おう……」
     気楽なのかマイペースなのか―――どのみち彼女にはもう会えないと諦めていたアールキーだが、ここからまだ彼女の生きる姿を見守ることができるのだと思うと、彼の気持ちはどこか不安や心配な感情が薄れた気がした。
    「ま、何はともあれ、これからよろしくな、初代統一の神(ディエティ)、アールキー・フライニング」
     そう言い、ライドは握手をしようと手を差し出す。これからどれほどの時間を“生きる”のかは分からないにしても―――それでも今の彼はここにいられるだけで十分だと思っていた。
    「……うん、こちらこそ、よろしく。ライド・コルコーン」
     そう言い、アールキーもまた手を差し出し、握手をかわすのだった。

    END